対談

【収録 2012年03月02日(金)】

第5回「うまれた絆、つながる未来」 2 / 2

復興食堂東京店のこと

川井:

私、仕事柄よく旅行代理店さんに営業に行くんですけど、復興食堂の東京店、常設店を作ってくれないかって言われることがあります。都会のビルの中で、復興食堂が岩手のものを食べさせてくれたら、俺なんか毎日来るけどなぁって言う人がいらっしゃったんですよね。

 

松本:
やりたいですねえ。それは、復興食堂の店長も前に言っていたんですよ。岩手の人もたくさん東京に出ているから、そういった人たちが働ける場所を作るのも良いんじゃないかと。
あとこれからのこととして、ぶっちゃけ岩手の被災を受けたところも、元々シャッター通りだった商店街もあるし、その地域をもっと活性化させたいとも思っています。この機会にみんなで意識を高めて、東京には真似できないような岩手らしいものをね。
でも、別の意味で時代をとらえた良いものって、やっぱり東京に集まっているので、そういったいろんなものを吸収したうえで、自分たちなりの形にして、新しいものを作っていこうと話しています。 そういう意味では、復興食堂の東京店は、将来岩手で働く若い人が、意識を高めていく場所であってもいいのかな。

 

川井:
そうですね。私は岩手に行ってみて、東京にはないものがたくさんある気がしました。

 

松本:
あります! 誇りに思う。

 

川井:
雪景色なんか最高だと思うんですよね。特に、花巻の空港からJR釜石線に乗って、釜石まで行く中間の遠野のあたり。地鳴りがするように吹雪いているんですが、あの中を人々がグッと耐えて生きていらっしゃることを思うと…。

 

松本:
でもそれは、外に出てみないとわからないんですよ。住んでいる人間は、冬はすごく寒いもんだっていうのが当たり前。初めて、違う土地に行ったときに、「あぁ故郷の冬は厳しかったんだな」とわかる。同時にその厳しい中で生き抜いてきた家族や、故郷の人たちのことを思うわけです。
さっき話に出た復興食堂東京店は、地元の人が東京に出て勉強できる場所として良いのかなというのは、そういう意味もあるんです。離れたからこそわかることがあるはずですから。いろいろ勉強して、また故郷に戻っていく。それができる場所があってもいいのかなと思います。

 

土方:
僕は、被災地へ支援に行きたくても時間的な余裕がなくて行けない人がいるので、離れていてもつながれる場所として、あったほうがいいと思います。

 

川井:
うん、情報基地。

 

土方:
そうそう、結局情報も取りづらいんですよ。今、被災地に入っている僕は、哲也さんとか現地の人から直接情報をもらっていますが、それでも実際は一部の情報だなっていうのをすごく感じるんですよね。被災地が広範囲に亘っているので、被災地の場所、被災の規模、それから支援の入り方の情報が正確に把握しづらい。元々あった街の状況によって、支援のニーズも違うだろうし。
そう思うと、現地であってもすべての情報が拾いきれないわけですよ。必要な人に必要なものが届かなければ意味がないので、情報が交換できる場所、発信できる基地っていうのはこれから必要になってくるのかなと思いますね。

 

被災地の医療について

川井:

私に直接入ってくる情報として、福島でお医者様が足りないっていう声があります。これは本当に辛い話だなぁ…と。

 

松本:
岩手でもそうですねぇ。

 

川井:
岩手でもお医者さんが足りてないんですか?

 

松本:
足りないですよ。

 

川井:
もともと少なかったんですか?

 

松本:
そうですね、震災前から小さい町の総合病院が縮小されていって、入院患者さんはもう受け付けなくする病院もありましたから。

 

川井:
そうすると、今被災地の仮設住宅に入ってらっしゃる方々は、調子が悪くなったら、どこに行かれるんですか?

 

松本:
場所にもよるんですけど、仮設の診療所や、ちょっと離れた大きい病院に行くしかないですよね。震災から時間が経っていない頃は、2時間くらいかけて病院に行っていました。

 

川井:
そうするとやっぱり大きい総合病院が必要ですよね。

 

松本:
そのあたりは既に問題になっているはずです。

 

川井:
大きくなくても、診療所レベルでもいいから、何箇所か欲しい?

 

松本:
欲しいですよね。プレハブでちょこちょこできてきてはいるんですけどね。

 

川井:
プレハブのお医者さん…。

 

松本:
やっぱり厳しいですよね。緊急を要するような患者さん、大きな怪我や病気だと、とてもプレハブでは十分な治療を施せませんから。

 

川井:
大槌町で復興の現場で働く建設事業者のための宿泊施設について動いているんですけど、本当は先に病院が要るのかもしれないですよね。

 

松本:
ただ、その辺に関しては、行政がしっかりすれば良いんじゃないかなって気がするんですよね。

 

川井:
たぶん行政が仕事をこなすキャパシティがオーバーしているんだろうと思うんです。

 

松本:
であれば、任せる機関を作るなりして進めればいいんじゃないかなぁと思うんですけどね。

 

川井:
宮城県は東北大学もあるしマンパワーも結構あるし、県庁も大きい。岩手と福島は組織そのものが、おそらく元からあんまり大きくないんですよ。

 

松本:
そうですねぇ。ただ、今こういう時だからこそ、立ち上がるべき人っていると思うんですよね。黙って待っているんじゃなくて。僕は全然学歴も何もない人間ですけど、動けて、プラス頭もいい人がいるなら、もっと前に出てきて欲しいです。

 

復興食堂、次の夢

川井:
哲也さんは、ご自分でいつも何もできないとおっしゃるけど、すっごく力を持っている人だと思います。

 

松本:
僕はただ笑っているだけですけどね! あと打ち上げで飲んで(笑)

 

土方:
前に哲也さんたちと話していて思ったのは、勢いがすごいっていうことです。

 

川井:
そう!

 

土方:
僕、哲也さんに聞いたことがあるんです。「復興食堂をお酒なしでしようとは考えなかったんですか?」って。復興食堂は、東日本大震災の一ヵ月後にやってるわけですよ、4月11日に。そんな時期にお酒をからめてしまって、失敗したり、人が集まらなかったりすることは考えなかったのかと。
そうしたら「酒を飲む場所が必要なんだって思ったからやった」って。この勢いがなかったら、結局復興食堂も実現していなかったわけですよね。救われた人がすごくいると思うんですよ。

 

松本:
最初はね、来た人が酔っ払って、暴れて殴られることもあるんじゃないかって話してましたよ。でも、「みんながそれでスッキリするなら俺らもいくらでも殴られようぜ」って。
周りにはいろいろ言われましたよ。被災地に行って、酒を振舞うなんて…とか、金儲けをしてるんじゃないか? とか。いろんなこと言われたけど、なんか文句あるならとにかく来てくれ、来てもらえればわかるよ、という気持ちでいました。

 

川井:
復興食堂が来ると、特に子供たちが嬉しそうでしたよね。

 

松本:
そうなんですよ。

 

川井:
「わぁ~ピザが来た!」みたいな感じで。

 

松本:
そうそう、ピザ大人気。元々あのあたりにはピザ屋がなくて、食ったことがないですからね。駄菓子コーナーも用意してたんですけど、ピザには負けました。子供がはしゃいだり、笑顔になっている姿を見ると、ホント大人ってなんか励まされるんですよね。

 

川井:
そうそう。せっかくだから、これからの夢をお互い共有しておきたいなと思うんですけど、石釜を造って、小麦粉練って、ピザ屋をしたい。技術は都会で教えてもらえばいいですから、地元の人で営むピザ屋。

 

土方:
いいですね!

 

松本:
うんうん。大槌とか釜石とか、是非ピザ屋さん作って欲しいな。

 

土方:

僕、石釜作りますよ。

 

川井:
あ、場所は吉里(きり)吉里(きり)[*5]=岩手県上閉伊郡大槌町の地名 なんてどうでしょう? 雰囲気ありますよね。

 

松本:
みんなでレンガ積みにいきますか!

 

川井:
復興食堂 in 東京店はピザ屋のためのトレーニングセンターにもなりますね。そう考えると、東京店も、開店したいですね。

 

松本:
僕ね、東京に上京したときに、居場所がなかったんですよね。だから気持ちの部分で、ずっと寂しくて。少しずつ友達もできていって、それが薄れていったんですけれど。だからやっぱり震災後、都会に出ていって、一人で頑張っている人たちの、心の拠り所にもなるかなって。

 

土方:
なりますよ。僕らも、会社で被災地の話をすると、変な言い方ですけど「復興バカ」みたいな扱いになっちゃうわけですよ。でも考えてみればそりゃそうなんです。1回も行ったことがない人に、ここがこういう状況で…なんて言っても、わかるわけがないじゃないですか。そうすると、僕らのように支援を通して現地の人と繋がった人たちは、その情報を共有したいっていう部分もある。
それに、哲也さんが言うように、震災後東京に出てきた人もそうかもしれないですし、その前から出てきている人も、故郷のことは気になるでしょうから。

 

川井:
私たちの次の夢、頑張ってやってみましょう。今日は、ありがとうございました。

 

松本・土方:
ありがとうございました。

 

いかがでしたでしょうか。
松本哲也さんの自叙伝「空白」をもとに製作され、ご本人が音楽を担当された映画「しあわせカモン」。彼の生い立ちが語られたこの映画を観て、私は深く感動しました。数々の困難を乗り越え、一つひとつを深く真剣に考えてきたからこその笑顔であり、歌であり、地域への愛なのだと感じたのです。
2009年に制作され東北地区のみしか公開されていませんでしたが、先日「お蔵出し映画祭2011」でグランプリを受賞されました。 皆さんにも是非観ていただけるとうれしく思います。

 

[*5]吉里吉里(きりきり)

=岩手県上閉伊郡大槌町の地名