不動産は「物語力」で再生する
著:川井徳子 (ノブレスグループ代表)
出版社:(株) 東洋経済新報社
価格:1,500 円(税別)
発売日:2011年11月27日(日)
頁数:215頁
体裁:四六版/ソフトカバー
執筆にあたって
執筆することは、自分の中で言葉になっていないけれど身についたもの=行動原理をことばにしていく作業でした。それは、尊敬する阿部謹也先生のこと・・・
それは、尊敬する阿部謹也先生のことばにある「<自分の中を掘る>ということ」そのものでした。 しかしながら、自分の行動原理を自ら確認することは極めて気分の重いことであり、自分の負の部分とも向き合わなくてはならない作業でもありました。
<自分のことを棚に上げて、他人を眺めやって、他の集団を全体的に捉えて、客観性だなんだと言っても全然説得力はありません。説得力はむしろ自分の中を掘り下るということで生まれてくるのです。 >
このことばを信じて、自分の中を掘り下げることを続けたのです。
<自分の中を掘っていったときに突き当たる動物としてのじぶんの基盤と、人間になってきている自分の基盤との関係は、単なる客観性という言葉で捕らえることは出来ないでしょう。たとえば日本人にはいくつかの行動パターンがあります。それは、何度も述べてきた互酬関係もそうですし、近代的合理主義に基礎づけられたものもそうです。しかし、そういったものは非常に深層にあって、普段は意識できない。なかなかそうした関係について自分をとらえることが出来ない。しかし、そうしたことを自覚させるようなものがあれば、それはそれで意味のあることだと思います。つまり、私たち自身の行動原理が見えてくるのです。>
(<>内は阿部謹也「<自分の中を掘る>ということ」)
この本では、生意気なことに「神の見えざる手」について触れています。市場は常に神の見えざる手によってバランスを取っています。
経営的な観点からいうと「先の見えない市場動向を読む能力をいかにして培うか」ということでもあると思います。
そして、市場の動きをわかって次の経営戦略を練っていくこと、場合によっては一つの市場を生み出すことも出来るのです。
しかし、そのためには本を書くのと同様か、それ以上の努力が必要であると考えます。そのためには、自身の行動原理や市場参加者の行動原理=未来のニーズ、を理解するための努力が大切なのです。
学問をする人にとって、書物を書くことが自己表現の場であるとしたら、経営者にとっての自己表現とは、本来は商品やサービスであると考えます。
アップルのジョブズが素晴らしかったのも、今までにない製品であり、新しい「スマート・フォン」「タブレットPC」という市場だったからです。
それは、これまでのPCや携帯電話の延長線上にあるものではなかったのです。
私の仕事は、ジョブズ程の完成度もなく中途半端なものですが、彼が見つめていたもののかけらが分かるような気がします。ジョブズの親友、ラリー・エリソンが何有荘という日本庭園を愛してくれたように、ジョブズも日本の禅の庭を愛していました。
庭園を前にして、「自分を掘る」ことを彼は続けたのだろうと思います。世の中に無いもの、自分しか知らないものを形づくってみせること。ジョブズがしてみせたことです。
「美学」ということを抜きに経営を突き詰めることは出来ないのだ、と感じています。そんな「美学」へ至る道筋として、よろしければご一読下さい。
本書の特徴
ビジネスにも人生にも、ミスやトラブルは必ず発生します。それを乗り越えていくには、考え方と行動次第。著者が身をもって再生してきたのは、会社経営や不動産だけでなく、トラブルを抱えた人生そのものです。
仕事も人生も、再生に必要なのは「物語力」。表面化していることだけに気を取られず、その土台となっている世界観を理解し、物語を紡ぎ出す力を身につけることが最も重要です。
「何有荘」「ホテルアジール・奈良」を中心とした川井徳子の実績、波乱に富んだ半生、試練に満ちた会社経営という3つのケーススタディをひもときながら、なぜ「物語力」が再生に有効なのか、再生に「物語力」を活かすにはどうしたらいいかを伝授します。