対談

【収録 2011年11月08日(火)】

第1回「天の時、地の利、人の和」 3 / 3

「人の和」をどのようにつないでいくのか

川井:

先生は長らく、神と仏のことを研究されていらっしゃいますけれども、3つ目のテーマ「人の和」という意味で、人の心はどこへ向いていくか。
高齢化社会として、宗教というものがもう一度大きな力をもつのか、そうではなくて違う形での終末の迎え方について、日本人が新たに道筋を見つけていくのか。どのようにお考えですか?

 

中牧:
今の時代は「どう生きるか」ということと「どう死ぬか」ということがセットになっている「死生学」という学問が求められていると思います。
「どう死ぬか」ということは、「今どういうふうに生きていくか」ということとつながっている。
単に葬儀の問題ではないんですけれども、お葬式の形式を見てみても、だんだん変わりつつあることがわかります。
例えば自然葬というのがあります。それは、遺骨遺灰を自然に帰す、海に遺灰を撒いたりとか、樹木の元に散骨したりとかするような形で、従来のお墓には入らず自然に戻るというのを選択する人たちが増えてきているんですね。これは、大きな変化だと思います。
私の亡くなったオランダの友人は北海に散骨して魂を沈めているので、北海の見えるホテルで偲ぶ会をしました。宗教的儀式はしないで、コーヒーを飲んでおしゃべりしただけですけど(笑)
海岸まで行って、友人を思い出したりしてね。

 

川井:
語るんですね、海を見ながら。

 

中牧:
そうそう。彼と親しかった人と一緒に。

 

川井:
今のお話を聞いていると、生物的死と社会的死があるように思うんですね。亡くなられた方は生物的な命と言う意味では、そこで一つの終わりが来ているかもしれないけれど、そうやって皆様が集まってその方のことを、お話になっていらっしゃるということは、社会的にはまだ生きていらっしゃるのかなと。
人が亡くなられることで、一つまた場ができるという感じでしょうか?
和ができる。先ごろ、丁度私の恩師が亡くなられたということで、連絡がきたんですけれども、卒業生が集まってお別れの会をしますとメールが届いていました。
それは、私たちでいうと先生を偲びつつ、一つの時間を一緒に過ごした学生の友人がもう一度集まって、過ぎし時を語るわけですね。

 

中牧:
一種の学縁といったらいいのかな。地縁、血縁、ひところは社縁が加わっていたのですけれども、今は学縁とか、それから神縁という神様の縁もある。
学縁なんていうのは、高齢化社会のなかでは重要な役割を果たすようになると思いますよ。

 

川井:
単に同窓会をするのではなく、その集まりで何か役割を果たしていこうとするわけですね。

 

中牧:
韓国なんかは、学縁がものすごく強い。しかも大学よりも高校の学縁が。仕事の上でそのつながりが強固なので、社会的な上昇を図るという意味での学縁だったわけですけれども、日本の昨今の学縁はそうではなくて、フレンドシップなんですよ。つまり利害関係にとらわれない、友情で高齢化社会を愉しむという学縁なのですよ。フレンドシップなので私は特別に「友縁(ゆうえん)」という造語で呼んでいるんですけれどもね。
フレンドシップを豊かにもっている人ほど、高齢化社会は愉しんでいけるということなんですね。

 

川井:
修学旅行にいったところで同窓会をすることをおすすめするということもいいですね。奈良とか京都とかは皆さん修学旅行で来ているので。
ということは、友縁をもう一度やっていただくと。

 

中牧:
実は私もそれに近いことをやったことがあるんです。
京都の祇園祭のときに高校の友人たちを呼んで、鴨川の床で一席を設けて、そこの宿に泊まり、夜は祇園祭の宵山に出かけていき、次の日は山鉾巡行を見るという企画です。信州の田舎からみんな出てきて、非常に楽しい時間を過ごしましたよ。

 

川井:
それは、祇園祭がツマだとすると、刺身の方は友と会う。

 

中牧:
友縁は老後の楽しみかたの有力な絆です。
こういうのでもって、自分たちの文化の発散をするんですよ。
もうあまり蓄積する必要はないんですから(笑)
こういうことを考えていくと、人生は楽しくディスチャージできますね。

 

川井:
事業に展開すると、刺身である友縁はすでにお客様がおもちなわけですから、皿と箸、ツマ・わさび・醤油とをセットすればいいわけですよね。

 

中牧:
春日若宮おん祭りという、芸能の一大ページェントがあるわけですから、そういうときに、修学旅行に来た奈良をもう一度愉しんでみませんかと。
ディスカバー・ジャパンではなくて、リメンバー・ナラとかなんとか言ってね。

 

川井:

それいいですね!(笑)
本日は、楽しいお話を聞かせていただいて本当にありがとうございました。

 

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いかがでしたでしょうか?
中牧先生は、梅棹先生とも親しく交流されていた民博第一世代の研究者でいらっしゃいました。「博物館とは、客商売だから常にネクタイを締めないといけない、間違っても白衣で歩いたりしてはいけない」というご指導のもと、本日もとてもダンディなお姿でした。
また、優しさにあふれたご表情から、優れた宗教者からお話を聞いたような満ち足りた気持ちにさせていただきました。

天の時、地の利、人の和について、世界的にも有名な文化人類学の研究者に直接ご指導いただける。この奥深い話を皆様と分かち合えるのは本当に幸せだなと感じています。