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2019年01月04日(金)

2019年、中村先生の想い出とともに

伝統を未来につなげる会を支えてくださる皆さま

 

明けましておめでとうございます。理事の川井です。

 

皆さま健やかに新春をお迎えのこととお慶び申し上げます。

昨年はユネスコ無形文化遺産登録に向けて、皆さまにたいへんお世話になりました。

おかげさまで、来年度に登録されるための準備が進んでいます。

 

この活動がこのような広がりをもつことができましたのも、前会長の中村先生のご尽力のおかげでございました。

私のような研究者でも専門家でもない者を中村先生は暖かく迎えてくださり、さまざまなご指導をいただきました。心から感謝いたしております。

この数年間の中村先生、大江事務局長との打ち合わせは、私にとって忘れられない勉強の場となりました。

 

ある時、中村先生に大江さんがたずねられました。

 

「中村先生でしたら登録されるべき技術の根幹は何だと思いますか?」

「大江君、それは規矩術だよ。」

 

専門外の私はその時「ぽかん」と口をあけていました。

自分の勉強不足を恥じいるばかりです。

規矩、ぶんまわし(コンパス)と曲尺、日本の建築技術はこの二つで法隆寺や東大寺を建てたのか。

 

薬師寺西塔の再建と西岡棟梁のことを知ることができたのは奈良に宮大工の伝統が残るからでした。

建築の本質とは「規矩」だ、という言葉を与えてもらえたのは中村先生、京都の数寄屋の伝統のおかげです。

 

奈良っ子の私はそれから「規矩」にはまりました。

〇コで規矩、ひょっとして前方後円墳とは規矩を表しているんじゃないだろうか。

少なくとも古墳を取り巻く水路は同心円を作る術がないと作れないじゃないか。

方格規矩鏡というのがあった。文字が読めなくても「規矩」を知るための道具だったんじゃないだろうか。

 

魏志倭人伝に、239年に卑弥呼の使者が中国から「魏の鏡」を百枚持ちかえったという内容が記されています。

奈良県天理市から出土した流雲文縁方格規矩鏡はそれから百年後。4c、古墳時代のものです。

 

奇しくも今年は百舌鳥・古市古墳群がユネスコの無形文化遺産に登録される予定です。

古墳は日本で最も古い、人の手によった作られた構築物です。

中でも仁徳天皇陵は世界最大級のお墓です。

 

私たち日本人は、エジプトのピラミッドをすごいすごいと感心しますが、仁徳天皇陵もすごい存在です。

この築造について大林組が1980年代に試算しています。

延べ人数680万人一日2,000人の労働者がかかわって、20年の歳月をかけて作られたのではないだろうかと。

総工費800億円(今なら2,000億円くらい?)

総人口が100万人に満たない時代の一大国家事業でした。

その建設にかかわった人は土を盛り、水路を作る技を獲得したはずです。

 

日本の規矩は土木に始まる。

日本の国づくりとは「稲」の収穫量を拡大させる土木技術であったことを古墳は教えてくれるように思います。

エジプトのナイルや中国の黄河のように、古代文明は「農」と切り離せないものだったのです。

漢時代に中国で発見された規矩術を土木に生かして日本人は国土づくりを行ってきたのだなあ、そんな風に感じています。

 

今回のユネスコ無形文化遺産の申請では建築だけにフォーカスされています。

中村先生は、庭園と建築が一体となった「庭屋一如」の精神こそが重要だ。

庭園の技術と共にあること、そこに自然との調和を目指す日本人の精神があるのだ、と訴えられました。

中村先生がご存命であったら、本年の世界文化遺産のことで大いにお話が盛り上がったのに、と心寂しく感じております。

 

同時に、本質への道筋を与えてくださった中村先生に、心から感謝したいと思います。

そして、今も私たちの活動を暖かく見守ってくださっていると感じております。

 

2020年に向かって、さらにがんばっていきたいと思います。

どうぞこれからも当会への温かいご支援をよろしくお願いします。

神仏習合する奈良町から、今年一年の皆さまの健康と繁栄を心よりお祈りいたします。

 

川井 徳子 拝

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