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2019年08月03日(土)

リフレ派によるMMT批判から考えること

野口先生と出会ったのは19年前でした。
リフレ派の初回会合時(それは数名の小さな集団)でした。
声がかかって関西から来たのは私一人でした。

 

>>ニューズウィーク日本版 野口旭 コラム「ケイザイを読み解く」 MMT(現代貨幣理論)の批判的検討(3)─中央銀行無能論とその批判の系譜

 

今回、MMTのケルトン教授を招聘PJの立ち上げは、このリフレ派と呼ばれる人々のことを評価することにつながるのだな、と考えています。

このリフレ派は野口さんが自分で「正統派」と主張する新しい貨幣的合意(the dominant mainstream New Monetary Consensus in macroeconomics)の学派NMCのことです。その金融政策を現代的な意味で価値づけする必要があると感じました。
今回はそれを改めて総括してみたいと思います。

 

↑2019年7月17日 研究会にて

 

この場合、軸は二つあります。
一つは経済学説史な流れであり、もう一つは政治状況的な動きです。

 

(1) 経済学説史として「取り上げない人」のこと

野口氏はバーナンキなど米国の中央銀行で展開されたリーマンショック後の大胆な金融政策、人々の期待に働きかける金融政策、量的緩和等を極めて重視しています。
そしてマクロ経済学の長い歴史をヴィクセル、リカードゥなど大量の先学の名前で解説していますが、「期待形成」の重要人物である「ルーカス」を無視しています。
しかし、リフレ派の金融政策を具現化している黒田日銀総裁による「期待に働きかける金融政策」という講演がオックスフォード大学で行われたのは、わずか二年前です。
黒田総裁はその時にルーカスの名前をしっかりと挙げています。
ルーカスとは「合理的期待形成説」の主軸となる人物であり、彼の研究は「政府が裁量的経済政策を行ったとしても,企業も個人もその結果を正しく予想し行動するところから,その政策は無に帰す」と財政政策の有効性を否定しています。

野口氏によるMMT批判では日本のガラパゴス的問題「日銀論争」に対して、詳細に延々と語るにもかかわらず、ルーカスの「期待」に働きかける研究「合理的期待形成仮説」について全く触れないのは、いったいなぜなのかという問題が残されます。

ここから、わざとルーカスの合理的期待形成仮説の問題点をなかったことにして通り過ぎようとする知的活動における規意識範の欠如が見えてきます。

そして、MMTのテーマを日本の金融政策の問題のみにとらえて矮小化することによって、ルーカスの仮説の持つ大きな問題点をなかったことにしたいという逃避へとつながっているように見受けられます。

「財政政策の重要性」を無視し、現日銀執行部の問題点である「現実の経済状況への無理解」や「現在の日銀の金融政策」の問題点を指摘できていないのではないでしょうか?

 

(2)政治状況的動きについて

野口氏が見えていないことのもう一つに、トランプ大統領は偶然に出現したのか、という点があります。トランプのことを世界中のマスコミがたたく一方で、米国では再選の可能性もクローズアップされています。
米国国民はなぜ彼を支持するのか。

それは、過去10年間の中央銀行とオバマ政権による金融財政政策が米国民を豊かにすることが出来なかったから、と言えるではないでしょうか。
米国民は怒っていて、不法移民にノーを突き付たトランプを喝采しました。不法移民問題とは米国市民の雇用と賃金の問題でもあるのです。

トランプ大統領の出現は、野口氏が正統派と任じるNMCの経済政策が「充分に国民を納得させるほどには機能していなかった」から起きたのではないでしょうか。

もちろん私はリーマンショック後にバーナンキ氏が世界の経済危機を回避した実績、NMCの一定の成果を否定するものではありません。

ただ、現実の社会から新しい社会的要請が出ているのに、いつまで「我々こそ正統派だ」というような論理を振りかざしているのかと、悲しく感じているのです。

黒田総裁が「政府の裁量政策から市場は影響を受けないのであるから消費税増税は何の影響もない」と考えているとしたら、これこそ大問題ではないでしょうか。

批判されるべきはこのタイミングで消費税増税をはかろうとする政府とそれを容認する日銀であって、貨幣の本質的な特徴を説明し、日本の財政には問題がなく、財政政策の拡大を主張するMMTではないはずです。

 

いつまで過去の日銀論争にこだわり、その結果低成長を容認し、そのさらに先に行くための「日銀の限界についてしっかりと解説する」ことを怠るのでしょうか。
これが現在の日本のリフレ派といわれる人々の問題点であると考えています。

 

>>ニューズウィーク日本版 野口旭 コラム「ケイザイを読み解く」 MMT(現代貨幣理論)の批判的検討(3)─中央銀行無能論とその批判の系譜

 

 

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