奈良公園を歩くとある予兆を感じます。
千数百年かけて出来上がった人間と自然の共生による奈良の森、その森の生態系の崩壊です。その理由は外来種、ナンキンハゼの侵食です。
奈良では鹿を春日大社の「神の使い」として大切に護って来ました。その結果、独特の景観が形作られています。鹿が木と草を食べることで、木は一定の高さに剪定され芝生も美しく保たれています。
鹿が食べる事が出来ない植物としてナギとアシビがあります。
アシビは奈良公園では、相対的に多い植物ですが、成長が遅いことや乾燥に弱いことなどもあって、森全体に大きな影響を与える程ではありません。
ナギは高貴で長命な植物です。「史前帰化植物」と言われ、熊野では神の木として大切にされています。成長が遅いため、森の生態系に影響を与える程拡がりません。
春日の杜には、千年を超えるナギの森が存在します。人間と自然が共生した証です。
そこに、急速に侵食して来た外来種がナンキンハゼです。ナンキンハゼも鹿が食べる事が出来ない植物です。ですので、公園の中で、次々と芽吹きます。
木の新芽は鹿のご馳走になるのに、ナンキンハゼは喰われる事なくやぶになります。
更にナンキンハゼの実を鳥が食べてフンにして落とすので、遠く離れた場所にも芽生えています。
もともとナンキンハゼは紅く色づき景観形成の一部として昭和40年代に街路樹として植えられました。拡がり始めたときも「秋の奈良に相応しい」と長らく人間にも大切にされてきました。
ところが、ここに来てナンキンハゼが驚くほど拡がってきて森の生態系に大きな影響を与えはじめています。
私たちは次世代に千年数百年続いてきた奈良の文化、自然と共存する心を繋ぐことができるのでしょうか。
芽生えたばかりのナンキンハゼ。新芽にも関わらず鹿が食べないので、目立ちます。
まだ新しい公園ガイドの看板。この看板より後から生えてきたナンキンハゼ。成長速度が速いので、すぐ大きくなります。
鹿が食べないので、木の根元に養父のようになっています。後ろの木は、数年でナンキンハゼに駆逐されるのではないかと思います。
春日大社の美しい森は千末百年かけて作られてきました。このまま続くといいな。
朝一番の鹿さんです。奈良公園の鹿は人間を恐れません。
この近くには、まったくナンキンハゼは見あたりません。しかし、飛火野の池のこんなところにもナンキンハゼが芽吹いています。